http://amagai65.iinaa.net/ 天海訴訟これまでこれから、たたかいの意義 天海訴訟弁護団 弁護士・社会福祉士 坂本千花 ★本件の概要(紛争の経緯) ・当事者 天海正克さん 昭和24年7月13日、千葉市在住 天海さんは、65歳になる以前から、障害者総合支援法の居宅介護サービスを、月70時間利用していました。(非課税世帯なので無償で利用)。 65歳になるのを機に、千葉市から介護保険の訪問介護サービスを利用するように言われ、要介護認定の申請をするよう強制されました。 天海さんは、平成26.7.8、介護保険を利用することで自己負担が生じること等が不当だとして、総合支援法の居宅介護サービス70時間の支給申請をしました。 平成26.8.1、介護保険の申請をしないことを理由に、総合支援法の居宅介護サービスの支給申請を全て打ち切られました(本件処分)。 ★天海さんの希望 ★千葉市の主張 ★千葉市の本件処分 申請を全て却下 ★第一審(令和3年5月18日千葉地裁)判決 ★第一審(令和3年5月18日千葉地裁)判決 @介護保険法は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等による要介護状態と併せて、加齢に伴って生じたものではない心身の障害による要介護状態も、保険の対象にしている。 A要介護認定の申請がされないと、介護保険サービスの量を算定することができないため、不足するサービス量を算定することができない。 B65歳以上の障害者が要介護状態であると見込まれるときは、要介護認定の申請をすることが、総合支援法の介護給付費の支給申請の適法要件となる。 C本件申請を却下せざるを得ない。 改めて控訴審で主張したこと 1.本件介護給付費支給申請の却下処分の違法性 @障害者総合支援法における要考慮事項を尽くしていない(千葉市の窓口における対応に不備があった)。 A本件全部却下処分は、比例原則に違反する。 2.原判決の違法性 令和5年3月24日 東京高等裁判所判決 天海さんの逆転勝訴 原判決を次のとおり、変更する。 .被控訴人平成26年8月1日付けで控訴人に対してした…却下する決定を取り消す。 .被控訴人は、控訴人に対して…居宅介護…身体介護月45時間・家事援助月25時間とする介護給付費の支給決定をせよ。 .被控訴人は、控訴人に対し、金27万4240円…を支払え。 令和5年3月24日 東京高等裁判所判決 控訴審では、「境界層措置」という制度下で、65歳以前から障害者福祉サービスを利用していた障害者間で、介護保険移行後の自己負担に不均衡が生じていることが問題となった。 ※境界層措置 福祉サービス利用の自己負担や介護保険料を軽減すれば生活保護に陥らずにすむ人に対して、自己負担額や介護保険料の負担を軽減する制度(介護保険法施行令35条3号・同施行規則113条4号。障害者総合支援法施行令17条4号・同施行規則27条) 総合支援法上の境界層措置を受けて自己負担が軽減されていた収入層は、介護保険移行後も引き続き軽減される。 令和5年3月24日 東京高等裁判所判決 被控訴人は、域内の住民のために社会保障を担っており、社会保障制度を運用するについては、住民に不均衡が生じないよう配慮すべきものあって、住民相互の不均衡をもたらす措置は避けることが求められる。 自立支援給付を継続することができる裁量権を有する。 不均衡を避ける措置をとるべきであったのに、とらなかったという意味において、裁量権の行使を誤った。 東京高等裁判所判決の理由中の判断 総合支援法7条の解釈について、天海さんの主張を退けた。 「我が国の社会保障制度は、社会保険中心主義にのっとって公的扶助、社会福祉等はこれを補完するものと位置付けられている」 「市町村が、介護保険法による保険給付と障害者総合支援法による自立支援給付とを選択して行うことができることを示したものではない」 「控訴人の主張は…65歳に達した障害者は、自立支援給付と介護保険とを任意に選択できることになり、介護保険優先を原則とする社会保障の基本的な考え方に沿わないとともに他の者との公平にも反する」 千葉市より上告受理申立て 千葉市の上告受理申立て理由の要点 ●7条の解釈については、争わない。 ●高裁判決に従った場合、実質的に介護保険と障害福祉サービスの選択を行うことが可能となり、裁量権の行使の名のもとに介護保険優先原則を空洞化する。 ●本件で問題となった不均衡は、障害者福祉制度及び介護保険制度の仕組みに由来するもので、千葉市には、裁量権行使によって不均衡を是正させる義務はない。 千葉市より上告受理申立て 弁護団の反論〜裁量権行使について 高裁判決は、地方自治体に対して、国の制度に矛盾があった場合に、法令や通知の内容を超えてまで市町村の裁量で解決することを強要したものではない。 高裁判決は、市町村職員に対し、全ての制度を把握しながらそれぞれに矛盾がないかを検討し大量の案件を処理するように求めたものではなく、くまなく制度を調べあげて全ての制度間不均衡を是正することを要求しているものでもない。 千葉市は、既存の制度下においても、適切に裁量権を行使して、障害者の人権を侵害しないように配慮することができたはず。 令和7年7月17日最高裁判決 最高裁の判断 原判決中千葉市敗訴部分を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。 . つまり… 東京高裁の判断は支持できない。東京高裁で、もう一度審理し直せ。 <最高裁判決の要点> ア 千葉市が(境界層措置制度の関係で)不均衡を避ける措置をとらなかったことを理由として本件処分に裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断は、是認できない(支援措置事業の実施により非課税世帯の障害者と境界層該当世帯の障害者との間に直ちに不均衡が生ずるとはいえない)。 イ 障害者総合支援法7条は、要介護認定がされたか否かに関わらず、介護給付のうち自立支援給付に相当するものを受けることができる場合には、その限度において介護保険が優先され、自立支援給付が行われないことを明らかにしたものと解される。 ウ 受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当するものの量を算定する必要があるにもかかわらず、その量を算定することができないことを理由としてされた本件処分は、その判断が、事実の基礎を欠くなどにより、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる。権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる。 エ 千葉市の「受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当するものの量を算定する必要がある」とした判断は、著しく妥当性を欠くものとは認められない。 オ 自立支援給付に相当するものの量を算定することができないとした判断の当否については、要介護認定を経ることなくその量を算定することができるというべき事情があるか否か等を考慮する必要がある。原審(控訴審)の判断には、これについて審理を尽くさなかった違法がある。そのため、原判決中千葉市敗訴部分を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。 なぜ、差し戻されたのか。 東京高裁は、境界層措置をめぐる不均衡に着目して、本件処分を違法と判断し、それ以外の論点については判断していない。 . ●要介護認定の申請がされない場合において、総合支援法で支給できる量の算定できるか。 ●本件処分は比例原則に反するか。 については、「判断を要しない」として判断を避けた。そのため、最高裁から「審理不十分」として差し戻された。 差戻審〜たたかいの意義〜 <差戻審の審理の中心> 要介護認定を受けない限り、総合支援法で支給できる量が算定できないとした千葉市の判断が、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかどうか、改めて審理されることになる。 . 差戻審〜たたかいの意義〜 ★総合支援法7条に関わる福祉行政の裁量をいかに解釈するかの問題である。 これは、事実認定の問題であるため、最高裁が判断するのではなく高等裁判所が判断すること(そのため差し戻された)。 ★障害者総合支援法7条 「自立支援給付は…介護保険法の規定による介護給付…のうち自立支援給付に相当するものを受け、又は利用することができるときは…その限度において、行わない。」と規定している。 . 文理解釈をすれば、行政は、介護保険法の規定による介護給付を受けられる限度を超えて、総合支援法の申請を却下することはできないということになろう。ところが、千葉市は、要介護認定を受けない限り、障害者総合支援法で支給できる量は算定できないとして申請を全て却下している。 ⇒ 千葉市の判断の当否が、差戻審の審理の中心となる。 <たたかいの意義> ★要介護認定を受けない限り、障害者総合支援法で支給できる量は算定できないと言い張ることは、福祉行政の姿として許容されるのか。 ★介護保険が利用できる正確な量が算定できないとして、申請を却下してサービスを全て打ち切ることが、行政に与えられた裁量の範囲と言えるか . 福祉行政の裁量の在り方が 問われることになる。 障害者総合支援法7条にひそむ人権問題 65歳になったとたんに急に高齢者向けのサービスを強要される。 . ★生まれながらに障害を持ち、家族や財産の形成も困難だった人に提供される福祉が、長らく健常者として生きてきた人の福祉と同じで良いのか。 ★65歳になった瞬間、障害者をやめて高齢者になれと言うのか。 ★行政の言うこと聞かない場合には、福祉サービスを打ち切ってしまうことが、福祉行政に与えられた裁量として許されるのか。 この不条理を伝えるのが、天海訴訟のたたかいの意義。