天海訴訟を支援する会ニュース46号テキスト版 2023.05.31発行 P1 自治体は住民福祉のために存在 上告取り下げ、判決に従って原告救済を 千葉市長へ抗議行動 5月26日、支援する会は千葉市長に対し、東京高裁判決を直ちに実行すること、最高裁判所への上告手続きを取り下げることを求め、抗議と要請の行動を行いました。天海正克原告、八田代表他18名が参加しました。千葉市役所前でのアピール行動と市議会各会派への要請、千葉市長への抗議を行いました。  市役所前では、スピーカーで市職員や道行く人に向け、原告天海正克さんの現状と裁判の概要を説明し、判決に対する市長の後ろ向きの対応について批判しました。 住民福祉の行政に立ち戻れ 天海訴訟を支援する会 八田英之代表 皆さんご存じのように、東京高裁では天海訴訟は逆転勝訴の判決がなされました。そもそも65歳になった障害者が、その時点で何も障害の状況も変わらないのに、住民税非課税世帯で無料であったあった天海さんに、新たに15,000円の負担を強いることになる。それはおかしいのではないか、障害者を年齢によって、どうしてこのような差別した扱いをするのか、これはおかしいということで天海訴訟は起こされています。 東京高裁判決は、この問題で、65歳で介護保険は国の制度によって「境界層措置」というものがあって住民税非課税でないけれども所得の低い人が、介護保険に移った場合の自己負担を減免される制度があり、所得の高い人の負担が無い、そのような人が現にいる。ところが天海さんのように所得の低い非課税世帯の人に負担が生じる、その矛盾が生じたわけです。 東京高裁はここに注目して、この矛盾は国の制度が生み出した矛盾だとし、自治体は住民福祉のために、住民の社会保障の要求に対して、不均衡を起こさないようにする義務がある。非課税世帯の人に負担があって、境界層措置の人に負担がないのはおかしい、この矛盾に注目してそれを解決するうえで、自治体には裁量権がある、障害者に福祉サービスを提供する必要がある、それを千葉市はやらなかったことで問題があるということで、天海さんの勝訴を決めたのであります。 皆さん、地方自治体は住民福祉のために存在します。国の下請けをするために存在するのではありません。自治体労働者は住民福祉のために、社会保障において不公平が生じないように対処する責務がある、これは地方自治について、きわめて重要な問題提起をしているのではないでしょうか。ましてや千葉市のように、障害者の給付を全部打ち切ってしまう、障害者が生活できないようにして、強制的に介護保険に移す、これは認められないというのが東京高裁の判決です。 千葉市は、この判決を不服として上告するというのは、自治体が住民福祉のためであるということをどう考えているのでしょうか。私は、千葉市は、最高裁への上告受理の申し立てを取り下げるべきだと思います。一日も早く、千葉市が住民福祉の立場に立った行政を進めるということに立ち戻るように強く願っています。千葉市役所の職員の皆さんがこのような立場で頑張っていただきたいと思います。どうぞ天海訴訟上告受理の申し立てを取り下げてください。よろしくお願いします。 本末転倒の福祉行政 千葉市議会議員 日本共産党 野本信正氏 天海訴訟を心から支援し、千葉市が上告受理の申し立てを断念することを要望するものです。 天海さんが、福祉給付を打ち切られたことは大変な苦しみがあったと思います。しかし、千葉地裁が不当判決をし、天海さんが東京高裁に控訴し、逆転勝訴を勝ち取ったのです。これで、天海さんは不当な差別から解放され、65歳を迎えるすべての障害者の福祉が進められるのですが、この判決にたいして、千葉市は上告受理の申し立てを行いました。  これは障害者の福祉、住民の福祉にとって本末転倒と言わなければなりません。千葉市はこの判決を受け止めて、障害者の不安を取り除くべきです。国の法律がこのような不当なことをしているときに、地方自治体が、それが間違いである、裁量権が自治体にはあるのだということをいうのが千葉市の役割だと思います。一日も早く上告受理の申し立てを取り下げるよう声をあげていこうではありませんか。 一人ひとりに寄り添って 全国障害者問題研究会千葉支部事務局長 瀧川恵理子 氏 天海さんは、全障研の会員でもあります。私たち障害者問題にかかわるものとして、障害児、障害者の皆さん、障害者の皆さんに係る多くの人たち多くの人たちと活動してきました。 障害者が65歳になったからといって、生活が変わるわけでもありません。これまで障害福祉できめの細かい支援を受けてきた障害者自身がどのような生活をしたいのかということに寄り添って考えるべきです。一人ひとりの障害者が一生懸命自分の人生を考えているのです。 ぜひ一刻も早く千葉市は上告受理の申し立てを取り下げ、一人ひとりの障害者に耳を傾け、障害福祉を進めてほしいと思います。 天海さんの生活と尊厳を取り戻す 千葉市議会議員 日本共産党 野島友介氏 この間、天海さんには大変な思いをされてきたと思います。千葉市は、4月7日に上告受理の申し立てを行いました。天海さんにとってはさらに厳しい状況に追い込まれます。即刻申し立てを取り下げ、天海さんの生活と尊厳を取り戻すことが必要です。 私も医療の世界でやってまいりまして、多くの人が介護保険サービスも受けられなくなって、苦しんでおられる方が増えてきています。介護する人たちも大変厳しい状況に追い込まれています。このような状況を打開するためにも、天海さんの問題を解決しなければなりません。頑張りましょう。 P3 市はもう一度しっかり考えて 社会保障推進千葉県協議会事務局長  藤田まつ子 氏 私は天海正克さんとは若いころからの友人です。自分らしく生きたいという思いにあふれて奮闘する姿にいつも私自身が励まされています。 天海正克さんが今から9年前、2014年の7月、満65歳になった天海さんに、千葉市は介護保険サービスを受けるように言われました。天海さんは、社会参加を含めた障害福祉制度と加齢に伴う介護保険制度とは違いがあるということ、15,000円の負担が生じるということで、介護保険の申請を断りました。すると、その8月からすべてのサービスが打ち切られ、月14万円もの利用料がかかることになりました。天海正克さんは、これは納得できないと2015年11月に千葉市を相手取って、千葉地裁に提訴をいたしました。ところが千葉地裁は、天海さんの訴えを棄却し、その判決は、行政の手続きに協力しない障害者はこのような状況に置かれるのは当然であるといわんばかりのものでございました。 天海さんは、これは不当判決だとして、東京高裁に控訴しました。そして全国の支援する方々とともに、裁判所に切実な声を届け、3月24日の東京高裁で逆転勝訴を勝ち取りました。本当にうれしかったです。ところがとんでもありません。4月7日千葉市は、上告受理の申し立てを行いました。許されることではないと思います。 私たち社会保障制度推進千葉県協議会では、毎年千葉県や県内の各市町村に、医療や介護、福祉、子育て支援について、私たちの人間らしく生きたいとの思いを届け、自治体要請キャラバンを取り組んでまいりました。その中で、昨年県内市町村にアンケートを取りました。県内54市町村のうち、65歳以上の障害者について、介護保険の優先原則に係って障害者福祉サービスを継続しているかどうかついて聞いたところ、54自治体のうち24市町村が引続き障害福祉サービスを続けている、また4市町村が検討しますと答えてくれました。残念ながら千葉市を含む26の自治体は、そんなことはしないという冷たい回答でした。 もう一度考えてみましょう。日本国憲法、障害者権利条約の中に、どこにも年齢制限はありません。障害者が、どこに住んで、どんな生活をするかは障害者自身が決めることです。障害者が自立して社会参加を望むのであれば、障害福祉サービスを継続すべきです。65歳になったからと言って、障害福祉サービスを打ち切ることは絶対に許されないことではないでしょうか。 もう一度しっかり考えてください。私たちは、障害者の尊厳が守られ、人権が保障されるよう、千葉市に上告受理の申し立てを取り下げることを求めるものです。どうか皆さん、お力をお貸しください。 議会各派へ要請 市役所前でのアピール行動に続き、会議室で市議会議員各会派への要請を行いました。裁判の概要を説明し、市長に対し上告受理申立てを取り下げるように働きかけていただきたいと要請しました。 ・市民ネットワークみはま副代表 黒澤和泉氏 ・日本維新の会 守屋 聡氏 ・日本共産党 野本信正氏、野島友介氏 ・無所属の会など6名の議員に応じていただきました。 その場で話題になったことは、 ・岡山市の浅田訴訟との違いについて。 ・2018年にできた償還払いのことについて。 ・障害者総合支援法7条問題 併用問題 ・申請主義の問題 ・厚労省の連絡、通知のこと ・老障介護問題 ・住民福祉の問題、個人に寄り添ってやってもらいたい ・車椅子の議員が千葉市にいること  ・65歳以降も障害福祉サービスのみで ・個々の事情を踏まえての対応を。 ・境界層措置のこと。不均衡問題 ・機械的な打ち切りの事実 ・総合支援法7条についての裁量権問題 ・上告受理の申し立てについて  などでした。 上告取り下げよ!と抗議 議員要請ののち、千葉市長への抗議を行いました。障害福祉課が対応しました。 支援する会から、 ・9年にわたる原告天海さんの苦しみを、さらにこれ以上長引かせることなく裁判を終結すべき ・千葉市長はこの判決を、社会福祉を担う自治体として真摯に受け止め、判決に従い、障害者総合支援法の規定による支給決定をすること等の事項を直ちに実行すること ・最高裁判所への上告受理申立て手続きを取り下げること を申し入れ、抗議文を手渡しました。 障害福祉課は以下のように回答しました。 「抗議声明文確かに受け止めさせていただきました。この抗議声明があったことをしっかりと伝えてまいります」 支援する会質問=この件について、障害福祉課の中でどのように検討したのですか? 市:自治体の裁量権を過大にするもので受け入れがたい 回答 「上告受理の申し立ての内容について、本市の中で検討しています。国制度の仕組み、すなわち介護保険制度と障害福祉制度の不均衡を市のほうで解決すべきで、その不均衡を避けるための措置をするべきであったのが違法としています。判決文の中にもあるように、本市によって変更することのできないもので、そこを裁量権で対処してほしいという点については、自治体の裁量権を過大にするもので受け入れがたいということです。そこで最高裁のほうに判断を仰ぎたいということが結論で、上告受理の申し立てを行いました」 市:介護保険優先が 国の考え 質問=なぜ天海さんに千葉市がこのような処置を行ったのか。その理由は何か? 回答 「障害者総合支援法7条において、自立支援給付は、介護保険サービスで相当するサービスがある場合は行わないとなっています。天海さんのサービスについて、千葉市としては、介護保険で障害福祉サービスに相当するものを提供できるということを認識しています。そのことについては、裁判の中でもおおむね符合するものと高裁の中でも認められています。 他市町村の中で、具体的な状況によって判断するのでわかりませんけれども、判決の中では、本市と違った運用を行っている中で、必ずしも介護保険優先原則にのっとっていないところがあるということで、それは本来それでいいのかといえば、事情があればいいのでしょうが、高裁判決でも認められているように、介護保険優先原則が認められているので、介護保険優先原則で行われているのが通常であるということです。 法律には「優先」と書いてありませんが、国の平成19年通知の中に「介護保険を優先するものとする」とあります。国の制度の考え方の中では、そのような取り扱いになっています。それも裁判の中で本市の主張通り認められていると認識しております。」 千葉市は、他市で行っている障害福祉の継続はそれぞれの事情と回答していますが、自らの市はどのような事情で福祉切り捨てをしているのかを説明すべきです。 P5 天海訴訟ウラ話 裁判所の人権感覚は? 司法の場にも合理的配慮(バリアフリー)が必要 全国肢障協 会長 渡邊覚 浅田訴訟判決の内容とは真逆な内容となった東京高裁判決。実は、判決内容だけでなく裁判所の対応も浅田訴訟とは真逆な事態が起こっていました。  私は、12月9日の結審の時も傍聴したのですが、事件はその時に起きました。東京高裁の車いすの傍聴席は6名分です。集まった車いす利用者は8名、2名があぶれることになったのですが、一般の傍聴席に余裕があったので私ともう1名が一般に回りました。  車いすの方たちがまず入室、続いて一般傍聴者が次々入室し、いよいよ順番がきました。係員に「車いすで椅子まで行って乗り移ります。車いすは廊下に出しますので」と言うと係員は「それはダメです。傍聴席まで歩いて行ってください」と躊躇なくのたまう。その返答にはビックリ!!「じゃあ、這っていきます」係員「それもダメです。歩いて行ってください」さらにビックリ仰天!!歩けないから車いす乗っているのが分からんのか〜と心の中で叫びつつ「分かりました。松葉杖持っている人に借りて歩いていきます。ずいぶん歩いてないので倒れるかもしれませんがよろしく」ほんの10メートルぐらいかな、松葉杖を借りて、大きな声で「ヨイショ、ヨイショ」と歩き、椅子に着いたとたん、椅子に向かってドスン座り。何とか傍聴できました。もう一人は、介助者にしがみついて引きずられるようにして入廷しました。 浅田訴訟の時は、こんな無体な仕打ちはありません。一般として入室するときも椅子のそばまで行くことはOK。事前に車いす傍聴者が多いとわかると、一般席の椅子を取り外して車いす席を広げる、介助者は傍聴人にカウントしないなどとても配慮が行き届いた対応でした。何でこんなに違うのだろか?やはり人権感覚の違い?と思った次第。  さて、3月24日の判決の時はどうだったかです。判決の時も車いす傍聴人は6名を超えたので一般に5人回りました。人数的には一般に回ればぎりぎり全員入れる人数です。係員に聞きました。「今回は、車いす5名が一般に回ります。みなさん歩かせますか?」係員「みなさん椅子まで行って乗り換えていただいていいです」オオー!対応が変わった!!一歩前進を勝ち取りました。が、まともや事件が起こります。残った傍聴券は5枚。裁判所の外で傍聴券の抽選が行われますので、抽選に並んでない人は基本的に法定室の前には並べません。ところが法定前には何故か二人の男性が扉の前に並ぶようにたたずんでいました。係員かなと思い深く考えていなかったのですが、車いす4人目の私が傍聴券をもらおうと手を出した瞬間、係員「これで傍聴券は終わりです。」とのたまう。え、あと二人分あるはずだと訴えると、先に男の方が並んでいたので渡したとのこと。ルールがおかしいと訴えましたが、無いものはないとの一点張り。結局傍聴できずに終わりました。 こんなずさんな管理が裁判所で行われるとは、崇高なイメージだった裁判所が、ガラガラと崩れ落ちた瞬間でした。まあ、裁判所の前で「逆転勝利」の垂れ幕「びろ〜ん」が見られたので留飲を下げましたが。。。 東京高裁判決逆転勝利は、大きな勝利です。でも人権感覚は最低ですね。これも変えていかなければと思った次第です。 PS:浅田訴訟支援する会の吉田さんから浅田裁判の時のことを教えてもらいました。岡山地裁、広島高裁岡山支部も最初は無理解だったそうです。支援する会の吉野事務局長、弁護団が何回も時間をかけて交渉し、車いす席の拡張や車いすの一般傍聴席への移乗を認めさせたとのこと。ここにも当事者、支援者の並々ならぬ努力があったのでした。私たち障害者が暮らしやすい街にするためには、私たち自身が運動することの大切さを改めて実感しました。目に見える成果の陰には、障害者運動ありですね。 (ニュース46号ここまで) メーリングリスト参加のお願い メールをお使いの方は、天海訴訟を支援する会のメーリングリストにぜひご参加ください。 ニュース配布、連絡、意見交換などに有用です。 ニュースに対するご感想、ご意見などお寄せください。 amagaisoshou@gmail.com あてにメールしてください。 ◎ご投稿をお待ちします。 天海訴訟を支援する会 262−0032 千葉市花見川区幕張町5-417-222 幕張グリーンハイツ109 障千連内 TEL・FAX  043−308−6621 http://amagai65.iinaa.net/ amagaisoshou@gmail.com 郵便振替 00260-0-87731 「天海訴訟を支援する会」 天海訴訟は、全国の65歳を迎える障害者共通の問題 支援の輪を広げてください この訴訟は全国の障害者共通の問題です。またこれまでに積み上げてきた障害者福祉制度の後退を食い止める裁判です。この訴訟に勝利するためには、世論の高まり、国民の皆さまのご協力が必要です。