天海訴訟を支援する会ニュース45号テキスト版 2023.04.26発行 P1 自治体の役割を積極的に認めた判決 千葉市の上告受理申立てに抗議 取下げを求めるFAX行動を 天海訴訟の高裁逆転勝訴判決を受けて4月20日、参議院議員会館で総括集会が行われました。千葉市が上告受理申し立てを行ったことから、最高裁での戦いの出発点にもなりました。現地参加者とオンライン参加者合わせて220名の方が熱心に話し合いました。  初めに支援する会八田代表から以下のの挨拶がありました。  天海訴訟について、不当にも千葉市は、最高裁に「上告受理の申し立て」を行いました。これは、浅田訴訟において、岡山市が高裁段階で裁判を終結させたことに比べても、大変頑固な行政の都合だけを優先した千葉市の不当な姿勢を明らかにしたものであると思っております。本日は、弁護団から高裁判決の内容をご説明いただき、学んで、最高裁で千葉市の上告を却下させるよう、その前に、千葉市が上告を取り下げるように取り組みを進めてまいりたいと思います。 私は、千葉県自治体問題研究所の理事長もしておりまして、その立場から言いたいのは、国が作った制度矛盾、「境界層措置」のある人と住民税非課税世帯の間で、介護保険に移った場合逆転現象が起きる、所得の多い人のほうが無料になり、所得の少ない人がお金を払わなくてはいけない、これは不均衡であって、そうした不均衡を是正することは、社会保障の運用について、住民の不均衡を起こさないようにする公正な行政を求められる自治体に、その限りで裁量権が認められるとしたことであります。 これは、国が作った矛盾であっても、自治体は住民の社会保障の権利を全うしていくうえで、しかるべき役割を果たさなければいけないという自治体の役割を積極的に認めたものとして、私は評価できるのではないかと思っております。 皆さんとともにこの判決について学んで、引き続き最高裁での闘いを強めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 続いて向後弁護団長から、高裁判決の解説がありました。(解説の骨子は7ページ) P2 理由書を見て対応 坂本弁護士からは以下の話がありました。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 皆さんの高裁裁判についての取り組み、ありがとうございました。東京高裁での「逆転勝訴」という結論に至った経過として、多くの人たちの応援の声が裁判所に届いたということが、非常に大きかったと思っています。弁護団としても、皆さんにお礼申し上げたいと思います。 千葉市から「上告受理の申し立て」という手続きがなされた状態です。「上告」とは若干異なります。千葉市は、高等裁判所の判決が、憲法違反と言ってきているのではありません。すでに最高裁で一定の判断がされているような事項について、従前の判決と異なるような判断をしたという高裁判決に対して、今までの判断と違うのではないかというのが、「上告受理の申し立て」となります。 今回は、65歳問題が大きな争点ですが、障害者総合支援法7条における65歳問題を扱った最高裁判所の判断はないわけで、千葉市が何が言いたいのかというと、今回の高裁判決が従前の最高裁の判断に違反しているということでもないわけです。高裁判決が、障害者総合支援法7条の解釈をするにあたって、重大な過ちを犯しているということが言いたいわけです。最高裁において高裁判決が障害者総合支援法7条の解釈にあたって、重大な過ちを犯していないかということが、審議されるということになります。いったい千葉市がどういう理由付けをしたのか、具体的に中身を見てみないとそれに対する対応ができません。千葉市の提出する理由書を見て、対処していくことになります。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::  応援に駆けつけていただいた  れいわ新選組の舩後靖彦議員、天畠大輔議員から挨拶をいただきました。  また、日本共産党の小池晃、宮本徹、倉林明子、高橋千鶴子、れいわ新選組の木村英子の各議員からメッセージ、秘書の方のご出席をいただきました。 (挨拶、メッセージ等は9ページほか) 最高裁への働きかけも 質疑、意見交換ではまず初めに、金沢大学の井上英夫名誉教授が発言しました。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 私は、人権保障、自己決定という視点で意見書を書かせてもらいました。今回の東京高裁判決は、勝訴という点では大きな成果ですが、判決内容では基本的なことには触れていない、人権保障という点を踏まえて、自己決定という原則を踏まえての勝訴という形ではなく、ある意味恩恵的な判決でないか。自助、共助、公助が社会保障の基本であるというのを認めているとすれば、これはとんでもないことです。公助を後回しにし、これに基づいて支援する法のモデルにしていることは大問題です。 東京高裁の考えで言えば、最高裁で争わなくてもいいように、狭いところの憲法のかか わりのないところで勝訴させるという配慮が与えられているのかと思います。 だから千葉市は「上告」ではなく、「上告受理申し立て」でいかざるを得ないような配慮があったのではないかと思います。何が不均衡ととらえているかを明らかにしてほしい。不均衡といえば差別の問題も含めていろいろあります。自己負担の問題一点で不均衡ということですね。 ・向後弁護士  義務付けと賠償について、社会保障の組み立てにまで裁判所は踏み込めていない。制度の枠組みの中で結論を導き出そうとしています。狭いところでの判決です。 ・井上氏 最高裁は、署名数、要請に行く人たちの数を気にしています。「上告受理の申し立てをうけつけないように」という取り組みがあります。 「自助、互助、共助、公助」が社会保障の基本であるというのは、2012年の社会保障制度改革推進法で出された罪深い法律です。社会保障の歴史から言うと間違ったもので、菅政権の時には、社会保障の基本であるということだけではなくて、「自助、互助、共助、公助」がすべての政策の基本とするところまで来て、「公助」だけでは社会保障ではないというところまで来ています。それが裁判所の判決に蔓延していることは大きな問題で、これに対する反撃が大事だと思います。裁判官には、裁判所の独立が大切だという裁判官もいます。人権派の裁判官がいることも事実です。司法の独立に向けて取り組みが必要です。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: もっと広範囲の運動を 続いて、明治学院大学の河合克義教授の発言です。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 判決文の中に、別紙1と別紙2のところに政府の文書が載っています。「自助、互助、共助、公助」の言葉が出ていて、この順番ですよと言い切ったことは重大な問題です。「互助」のところに、「お互いに助けあいなさい」というところに、その中身として「社会保険制度」を入れてきています。介護保険、健康保険、年金というのは、お互いに助け合うものであって、権利としての社会保障ではないという最近の政策的な判断で、そこでやれない一部の人は「公助」で救いますという論理は、国際的にみても、これまで組み立てられた社会保障考え方とも大きく違う、日本独特の理論で非常におかしいものです。「優先原則」との関係で、今、若者と高齢者を対立させて、高齢者の年金を引き下げる、死ぬまで70歳まで働け、医療の自己負担など、そして「障害者は高齢者に合わせなさい」というのは障害者福祉サービスになっていない、障害者のサービスを高齢者のサービスに合わせるというのが、「介護保険優先原則」に含まれています。これは重大な問題です。最高裁でこの問題も含めて闘うということは大変なことで、もっと広範囲の人たちの結集して、広範な運動を組織する必要がある課題だと思います。 私は自治体の審議会にかかわっていますが、高齢者、障害福祉の担当者にこの問題について聞いてみると、自治体の格差があることがみられるので、全国の自治体の担当者に、実情を聞き取る必要があります。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 千葉市は県条例踏みにじる 「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラムのお二人から発言がありました。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: <古賀典夫さん> 「自助、互助、共助、公助」で介護保険優先という流れ、千葉地裁、東京高裁の判断が正しいと言うことが、最高裁で確定することは大変なことになるなという思いがあります。最高裁に対して、いろんな障害者団体が意見を投げつけていくことが有効なのかどうかという運動の面と、裁判所は法律に基づいて判断するところだと思いますが、厚労省は「自助、互助、共助、公助」という順番について、法律にはないといいます。 裁判所というのは、法的な根拠ではなく、政府の政策によってふらついている、裁判所の在り方に問題があります。 <鈴木敬冶さん> 天海さん、そして、支援する会の皆さんの粘り強い闘いに敬意を表します。大田区に住んでいます。 私はすでに71歳ですが、介護保険を利用せずに、障害福祉サービス一本で暮らしています。「上告受理の申し立て」をした千葉市に対し、頭にきています。私にも以前、移動時間をめぐり大田区を相手取って裁判を闘った経験があります。微力ながら最高裁の闘いを応援していきたいと思います。 今を去ること25年前、千葉県は、全国の自治体に先駆け、「障害のある人もない人もともに暮らしやすい千葉県づくり条例」を制定しました。この条例の第2条2項では、「行政の障害者に対する不利益の取り扱い」として、合理的理由もなく、福祉サービスの提供拒否を挙げています。 千葉県を代表する自治体といえる千葉市が、あろうことかこの条例を踏みにじり、天海さんに不利益を押し付けてきたのです。許せません。今年9月、65歳を迎える山形県在住の私の知人も天海さん、支援する会の皆さんの闘いに注目しています。最後までともに頑張りましょう。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 神奈川肢障協の上野耕一さんから「千葉市の「上告受理の申し立て」に対して、最高裁の判断はどうなるのでしょう」との質問があり、向後弁護士は「上告受理の申し立ての理由書に、理由が無いと判断したときは書類審査だけで判断することもあります。または、検討した結果、双方から意見をもとめ、踏み込んだ判断をしてくることもあります。何らかの答えが最高裁からでてきます。」と答えました。 積極面は活用を 支援する会事務局の三橋恒夫さんから、意見と提案がありました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 三つの観点から天海訴訟の判決について、私の意見と提案をさせていただきます。 一つは、自治体の役割についてです。天海さんは、65年間千葉市に住んでいて、天海さんの状態について千葉市はよく知っているのです。それなのに介護保険を申請しないという理由で、天海さんのすべてのライフラインを切ったのです。まさに砂漠の真ん中に放り出されたようなものです。水道もガスも電気も使えないようにしたのです。そんなことでいいのかということで裁判を起こしたのです。今回の判決の中で、いろいろな問題点があり、見るべきものがないという意見もありますが、私は明るい面もあると思うのです。それは、千葉市の責任を認定したことです。理由はともかく、天海さんを放置した、それが違法だから損害賠償を支払えということです。障害者運動をしてきた私たちにとってしっかり確認しなければいけないと思います。 二つ目は、天海さんが提訴したのは2014年、その時はなかった介護保険利用料の償還払い制度が2018年にできたことは、天海訴訟を提起した大きな成果だと思います。これは日本全国の障害者全体にかかわっていることです。制度そのものは、厳しい条件があって、私のような特定疾病の場合は使えないといった色々な制限があるのですが、これからそのハードルを下げていくための運動をしていくことが必要です。天海さんのような状況にある大半の非課税世帯の障害者にとって、大きな成果だと思います。 また判決文の中でうれしい箇所もありました。天海さんが65歳になるとき「介護保険を申請しない理由書を出せ」と千葉市から言われ提出しました。15,000円の負担は、生活上厳しいということを書きました。千葉市は、初めはその理由書を受け取らなかったのです。「経済的な問題は理由にはならない」としたのです。しかし今回そのことが東京高裁判決の中で、「千葉市に提出した介護保険を受けない理由の中に、15,000円のことがちゃんと書いてある、だから千葉市は、天海さんの生活事情を予見できたのにもかかわらず何もしなかったことが違法なんだ」ということを高裁判決が指摘していることです。 三つ目は提案です。上告受理申し立てが却下され高裁判決が確定した場合の今後の運動です。高裁が言うところの「不均衡な状況の放置」は全国いたるところで生じています。境界層措置を受けていない障害者がほとんどです。全国の65歳を迎える障害者は「不均衡放置」だから是正されるまでの間は障害福祉を適用せよ、と主張できるはずです。運動をおこしたいです。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 高裁判決と厚労省見解は異なる 障全協 山ア光弘さんの発言。 天海訴訟は勝ちました。いろんな理由があったとしても、障害福祉サービスをすべて打ち切ることは違法だということを認めたことです。ここを大事にしていくポイントだと思います。介護保険の認定については、あくまでも本人が決定するのであって、それを強要したり誘導したりするのは、不適切なことです。本人に納得してもらって申請する。日本の社会保障の原則は「申請主義」であることを認めています。 東京高裁判決は厚労省と少し違っています。厚労省が2007年の通知を新しい通知に切り替えようとしています。「介護保険サービスに相当するサービスがある場合は、原則として介護保険に移行してください。ない場合は継続して障害福祉サービスが利用できます。しかし、これはあくまでも原則で、そこでは、個々の事情を勘案したうえで、介護保険サービスと障害福祉サービスを併用する、障害福祉サービスを継続して支給する。」と書かれています。そのことを厚労省にも確認したら「その通りです」との回答でした。個々の事情を勘案したうえで、「支給決定をするのは自治体です」とのことでした。千葉地裁、東京高裁での「自治体裁量権はない」という判断とは食い違っています。そのことを伝えてくことが大切だと思います。 東京高裁では、法7条は羈束処分と言いながら、不均衡については、裁量権はあるとした。「障害者差別解消法」の問題を指摘しているのかなと思います。過重な負担がない限りでは、「合理的配慮」を提供する義務があるということです。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 7条を争点化するのか きょうされん 小野浩さんの発言。 逆転勝訴で喜び合ったのですが、その後判決文を読んでいて、戸惑いました。しかし、勝ったわけですね。東京高裁が、天海さんの不利益を作り出した千葉市が悪いとした、そのことがはっきりしたのです。 それに対して、千葉市が「上告受理の申し立て」を行った。しかし、今日のところではその中身を確認できないわけです。今日はこの判決をどう受け止めるかというということが集会の目的になるかと思います。次の展開は、上告理由書が出てきたところで、総合支援法の7条の問題を争点化して議論するのかどうかだと思います。 要望ですが、当面千葉市に対して「上告受理の申し立てを取り下げろ」というファックスをするとともに、理由書が出たところで最高裁への取り組みも考えてほしいと思います。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 上告受理申立てを取下げよ 司会者から支援する会と弁護団連名の声明が読み上げられました。(全文は10ページ) また事務局から最高裁に臨む行動提起がありました。(別紙あり) 1.「救済を引き延ばすな! 上告受理申立ての理由はないから取下げすべし!」という活動 2.千葉市議会、千葉県議会各会派へのはたらきかけ(6月市議会、県議会で問題を取り上げてほしいという要請) 3.千葉市に対して「上告受理の申し立ての取り下げ」ファックス行動 必ず勝利を 最後に天海正克原告から挨拶がありました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: この総括集会に集まった皆さん、ありがとうございました。東京高裁で勝利しました。本当に粘り強くやってきた成果だと思います。多くの皆さんからの署名、多くの傍聴に駆けつけてくれたおかげだと思います。これからもよろしくお願いします。 これから介護保険そのものをどうしていくかということについては、高齢者の皆さん、団体とも共同した運動をしなくはいけないと思います。 必ずこの裁判に勝利するために、皆さんとともに頑張っていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。 P7 天海訴訟東京高裁判決の解説(骨子) 天海訴訟弁護団長  向 後  剛 1 障害者総合支援法(以下、単に「法」という。)7条の規律内容、法22条1項による支給要否決定との関係等 (1)介護優先の原則について 法7条は、自立支援給付とその他の法令による給付との調整規定であって、介護保険法についてみれば、介護保険優先原則を定めている。 (2)控訴人の主張について 「法7条は、市町村が個々の障害者の実情に応じて個別具体的に判断し、自立支援給付を継続することをも認めるものであって、市町村を羈束するものではない。」との主張は採用することができない。 (理由) ア 法7条は、「加齢に伴って生じた心身の障害に対する支援はそのリスクを広く分散して負担させることに適する。」との考えに基づき、また、「加齢に伴って心身の障害が生じた高齢者と高齢化した障害者とを公平に取り扱う」観点から介護保険優先の原則を採用したものであって、支給要否決定を行うに際しても、この原則が妥当すると考えられる。法7条が、所定の要件が満たされる場合には、自立支援給付を(「行わないことができる。」ではなく)「行わない。」と定めていることも、上記のことを裏づけるものである。 イ 厚労省の見解 平成27年の社会保障審議会障害者部会報告書 (3)憲法違反・条約違反 ← 立法府の広い裁量 逸脱・濫用は認められない。 (4)課長通知・事務連絡 ← 市町村が給付を選択して行うことができることを示したものではない。 (5)他の市町村の取り扱い 裁量権の反映ではない。 2 法7条「自立支援給付に相当するものを受けることができるとき」の意義 (1)判断 65歳に達した障害者は、要介護認定の申請をして要介護認定を受ければ、介護給付を受けることができるから、当該障害の状態について「自立支援給付に相当するものを受けることができるとき」に当たる。 (2)控訴人の主張について 要介護認定の申請がなされていない段階では二重給付にならず「受けることができるとき」にあたらないという趣旨の控訴人の主張は、採用することができない。理由:利用者に給付の選択を認めることになり、社会保障の基本的な考え方(基本は自助、共助が支え、公助が補完)に沿わない。他の者との公平にも反する。 3 裁量権の逸脱又は濫用の有無 (1)聴き取り等が十分なものでなかったか 被控訴人は複数回の聴き取りや一定の説明をしている。「控訴人からの聴き取り」や「控訴人をめぐる状況の調査や把握」等が十分なものではなかったとは認められない。 (2)新たな利用者負担が生じたことについて 居宅介護の介護給付費について境界層措置により利用料を負担していなかった障害者のうちには、介護保険に移行した後も、介護保険制度下における支援措置により、利用料を負担しない者がある。 ところが、控訴人は、もともと非課税世帯であるために、障害者福祉制度における境界層措置を受けるまでもなく、居宅介護サービスの自己負担がなかったことから、介護保険に移行しても、介護保険制度下における支援措置を受けることができず、月額1万5000円を負担している。 被控訴人は、域内住民のための社会保障を担っており、社会保障制度を運用するについては、住民に不均衡が生じないように配慮すべきものであって、住民相互の不均衡をもたらす措置は避けることが求められる立場にある。上記不均衡を固定するような措置(本件申請の却下)に合理性を見出してこれを是認することは困難である。 被控訴人は、控訴人が提出した「介護保険を申請しない理由書」からも、上記の不均衡を知り、又は容易に知ることができた。 以上の諸点を総合考慮すると、被控訴人は、域内の住民のために社会保障制度を運用する責任を負う立場にあるから、上記不均衡を避けるためという限度においては、自立支援給付を継続することができる裁量権を有する。 本件処分は、この裁量権の行使を誤ったものとして違法である。 以上によれば、本件処分全体が違法なので、@給付量算定の可否、A比例原則違反については、判断することを要しない。 4 本件義務付けの訴えの適法性  略 5 本件処分の国家賠償法上の違法性及び損害 前述のとおり本件処分は違法であり、かつ、被控訴人においては、控訴人が介護保険への移行後に新たに利用料の負担を余儀なくされることを予見し、このような事態を回避することもできたというべきであるから、被控訴人は、控訴人に対し、国賠法上の責任を負う。 上告受理申立・・「最高裁判所の判例と相反する判断がある事件」「その他法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」 千葉市コメント「(東京高裁判決は)自治体の裁量権の範囲を過大に求めるものであり、受け入れがたい。」 P9 障害福祉サービスの打ち切りをさせない地域での取り組みが必要 「天海訴訟 逆転勝訴 総括集会」にお集まりの皆さん、こんにちは。れいわ新選組・参議院議員の舩後靖彦でございます。 2020年1月の院内集会に参加させていただいて以来ですが、このたびは、東京高裁における逆転勝訴、おめでとうございます。原告の天海さん、弁護団、支援する会の皆様の長きにわたる闘いの成果と、心から敬意を表します。 しかし、千葉市がこれを不服として4月7日上告受理申立てをしたために、天海さんへの障害福祉サービス利用が閉ざされたまま、さらに闘い続けざるを得ないということ。まことに怒りを禁じえません。 また、天海さんに対する千葉地裁の申請却下決定を取り消し、支給決定をすること、という判決自体は全面勝訴ですが、その理由は、千葉地裁の判決が、課税世帯で生活保護の境界層措置の対象となった障害者と、非課税世帯の障害者の間の、利用料にかかる制度間の不均衡を固定化するからというもので、65歳になったら介護保険優先とする原則自体が不公平だとする主張はかえりみられませんでした。 むしろ高裁判決は、千葉市の主張を全面的に取り入れ、障害者総合支援法第7条の介護保険優先原則は、自治体の自由裁量権が認められたものとは言えないという法解釈を採用しています。 つまり、2007年に厚労省が出した「一概に介護保険サービスを優先的に利用するものとはしない」。「福祉サービスの利用意向を聴き取りにより把握した上で、申請者が必要としている支援内容を、介護保険サービスにより受けることが可能か否かを適切に判断すること」とする「介護保険と障害福祉の適用関係の通知」にもかかわらず、「要介護認定調査への未申請者に対して、介護保険が優先されることの周知徹底を求めていることを踏まえると、自治体に介護保険給付と障害福祉給付の選択に係る裁量権があることを示したものではない」としています。 このような法解釈が固定化されたら、65歳以上の障害者の生活は大変なことになります。断じて容認できません。 私も昨年の10月に65歳となりました。幸い私は、それ以前から利用していた障害福祉サービスの重度訪問介護を継続利用できています。しかし、この判決の法解釈によれば、今後、自治体の要請に応じずに要介護認定調査への申請をしない場合、天海さんのように障害福祉サービスを打ち切られる障害者も出てくる可能性があります。このあたりのことは、弁護団の報告を基に、さらに勉強させていただきたいと考えております。 高裁の判断の問題に関しては、今後の上告審での闘いに向け、天海さん、弁護団、支援する会の皆様で様々に検討されていくことと存じます。 裁判と並行し、各自治体による一律介護保険優先の対応や、障害福祉サービスの打ち切りをさせない地域での取り組みが必要です。 それとともに、根本的解決のためには、65歳以上になったら介護保険優先を定めた、障害者総合支援法の第7条を改正する必要があります。立法府に身をおく者として、この問題はわがこととして、誠心誠意取り組んでまいります。皆さん、一緒に頑張ってまいりましょう。 国会で介護保険優先原則の解消に取り組む れいわ新撰組 参議院議員 天畠大輔さんからご挨拶をいただきました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: れいわ新撰組の天畠大輔です。ここまで頑張ってこられた天海さんに、ねぎらいの言葉をお伝えしたいです。障害者の生活を守る千葉市が、「介護保険優先原則」を盾にして、障害福祉サービスを一方的に打ち切り、高裁裁判で違法の判決が出たにもかかわらず、それを認めず上告することに、障害当事者として憤りを感じます。 天海さんが利用していた「居宅介護」、私が利用している「重度訪問介護」は、障害者の人権保障を目的にした、「障害者総合支援法」に基づくサービスです。障害当事者の先輩たちが、命懸けの運動で作ってきた制度です。介護の家族依存を是正するために作られた、介護保険法とは法の目的から違うのです。 介護保険には、たくさんの禁止事項があります。「大掃除だめ」、「買い物の代理はしてはいけない」、そして重度障害者にとって命綱である「見守り」も認められません。障害者の自立生活を支える制度ではないのです。 「介護保険優先原則」は、私にとっても他人事ではない重要な問題です。障害保持者の国会議員として、私にできることは、裁判の根本の原因となった「介護保険優先原則」を変えるための行動です。国会で障害福祉サービスが介護保険に置き換えられないことを政府に訴えていきます。「介護保険優先原則」の解消に向かって取り組みます。ともに頑張りましょう。 障害者の人権守る上で大変重要な裁判 日本共産党 宮本徹氏衆議院議員(松尾秘書代読) からのメッセージ :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::  障害者が65歳を迎えた途端、今まで無料だった障害福祉サービスから、原則一割の自己負担が生ずる介護保険への移行を求められ、これを拒否したことにより、障害福祉サービスの支給申請を却下したことは、憲法や障害者権利条約に違反すると、長きにわたり裁判を闘ってこられた天海さん、弁護団をはじめ、支援者の皆さんに心から敬意を表します。先月3月24日の東京高裁判決は、一昨年の5月18日の千葉地裁の不当判決に対して、逆転勝訴判決となりました。千葉市は、この判決を重く受け止め、一律に介護保険サービスを優先せずに、障害者の個々の実態に応じた支給を行うべきです。ところが千葉市は、4月7日、最高裁への上告手続きを取りました。引き続き争う姿勢に対し、強い憤りを感じております。障害者の65歳問題については、全国各地で、同様に悩んでおられる方がいらっしゃります。それだけに、この裁判の行方は、障害者の人権守る上で大変重要だと思います。同時にこのような問題の根本的な解決のためには、政治の責任も大変重いものです。私もこの問題の解決にむけ、国会議員の立場から力を尽くしてまいります。 日本共産党 厚生労働部会長 宮本徹 P10 令和5(2023)年4月16日 天海訴訟を支援する会 天海訴訟弁護団 天海訴訟 東京高裁判決逆転勝訴! 千葉市の上告受理申し立てに対する抗議声明 平成26年、障害をもった状態で65歳を迎えた天海さん(千葉市在住)は、介護保険への移行を拒み、障害福祉サービスの支給申請を行いました。千葉市は、「介護保険の優先」(障害者総合支援法7条)を理由に、その申請を却下しました(本件処分)。  本件処分の効力を争い、本件処分の取消し等を求めた天海訴訟において、東京高等裁判所(控訴審裁判所)は、令和5年3月24日、天海さんの敗訴となった第1審判決を変更して、天海さん逆転勝訴の判決を言い渡しました。 この高裁判決は、「市町村は、域内の住民のための社会保障を担っており、社会保障制度を運用するについては、住民に不均衡が生じないよう配慮すべきであり、住民相互の不均衡をもたらす措置は避けることが求められる立場にある」として、市町村に住民相互の不均衡を避けるための裁量権を認めました。その上で、千葉市は、介護保険への移行に際し、非課税世帯でないのに利用料を負担しない者があるのに、天海さんのような非課税世帯の者には利用料自己負担分が発生するという制度的不均衡を避けるために、天海さんが申請した障害福祉サービスの支給決定をすべきであったとして、本件処分を違法とし、ほぼ全面的に天海さんの請求を承認しました。 本判決ないし本裁判は、主に以下の3点において重要な意義があります。 1.「住民相互の不均衡をもたらす措置を避ける」という限度ではありますが、介護保険移行時の障害福祉サービスの継続支給に係る裁量権を認め、域内住民の社会保障を担う市町村の責任を重視したこと 2.国家賠償法1条1項の適用により、上記の責務を担う地方自治体職員のあり方・職務に係る姿勢が問われたこと 3.私たちの運動の力で裁判所に声を届け、勝訴判決を勝ち取ったこと しかし、4月7日、千葉市は、この判決を不服として最高裁に上告受理の申し立てを行いました。65歳等で介護保険対象となった障害者のみに介護保険への移行を強要し、それに応じないと障害福祉サービスを打ち切るという千葉市の対応は障害者差別に他なりません。また、これは浅田訴訟において岡山市が高裁判決を確定させたことと比べても、千葉市の住民に寄り添わない頑迷な姿勢を示したものであります。 私たちは、自らの過ちを認めず、反省もしない千葉市の対応に強く抗議し、千葉市が上告受理の申し立てを取り下げることを要求します。そして勝訴確定のために全力を尽くします。 P11 上告受理申立の取り下げを求めるFAX・メールのお願い 2023年4月20日 天海訴訟 支援団体・支援者の皆様へ 天海訴訟につきましては、裁判の傍聴、活動資金援助、裁判所への署名など物心両面のご協力に感謝申し上げます。 3月24日、東京高等裁判所は原告天海正克さんの訴えを認め、原告全面勝訴の判決を下しました。その内容は 1.障害者総合支援法の申請却下決定を取り消すこと 2.障害者総合支援法の規定による身体介護、家事援助の支給決定をせよ 3.国家賠償法に基づき、ホームヘルプ利用料自費負担分、慰謝料等を支払え などです。  千葉市長はこの判決を、社会福祉を担う自治体として真摯に受け止め、直ちに実行すべきです。 また、9年にわたる原告天海さんの苦しみを、さらにこれ以上長引かせることなく裁判を終結すべきです。  千葉市長あてに「上告するな」のFAX送付にご協力いただきましたが、千葉市長は上告受理申立ての手続きを取りました。しかし今後50日以内に上告の理由書を提出することになり、現在はまだ上告手続きの途中の段階です。  再びのお願いですが、上告受理申し立てを取り下げるよう、各団体、支援者の声を添えてFAXしていただきたく、よろしくお願いいたします。  別紙を参考にしていただいて、一枚でも多くのFAXを千葉市長に届けてください。 できるだけ早いFAX送付をお願いいたします。  なお、FAX送付が困難な場合は、メールで「上告受理申立て取り下げよ」のメッセージを送ってください。 千葉市長あてメールアドレス  hisho.GEM@city.chiba.lg.jp 千葉市長への手紙WEB版の活用も <↑で検索してください> 5月31日までにお願いします。 P12 FAX番号 043-245-5529 2023年  月  日  千葉市長 神谷俊一 様 天海訴訟 上告受理申立を取り下げてください 氏名又は団体名                                   住    所             3月24日、東京高等裁判所から言い渡された判決(令和3年(行コ) 第170号 行政処分取消等請求控訴事件<原告 天海正克、被告 千葉市>)を、社会福祉を担う自治体として真摯に受け止めて、下記事項の実施を求めます。 記 1.判決に従い、障害者総合支援法の規定による支給決定をすること等の事項を直ちに実行すること。 2.最高裁判所への上告受理申立て手続きを取り下げること。 (ニュース45号ここまで) メーリングリスト参加のお願い メールをお使いの方は、天海訴訟を支援する会のメーリングリストにぜひご参加ください。 ニュース配布、連絡、意見交換などに有用です。 ニュースに対するご感想、ご意見などお寄せください。 amagaisoshou@gmail.com あてにメールしてください。 ◎ご投稿をお待ちします。 天海訴訟を支援する会 262−0032 千葉市花見川区幕張町5-417-222 幕張グリーンハイツ109 障千連内 TEL・FAX  043−308−6621 http://amagai65.iinaa.net/ amagaisoshou@gmail.com 郵便振替 00260-0-87731 「天海訴訟を支援する会」 天海訴訟は、全国の65歳を迎える障害者共通の問題 支援の輪を広げてください この訴訟は全国の障害者共通の問題です。またこれまでに積み上げてきた障害者福祉制度の後退を食い止める裁判です。この訴訟に勝利するためには、世論の高まり、国民の皆さまのご協力が必要です。