天海訴訟を支援する会ニュース41号テキスト版 2022.10.16発行 P1 12/9 いよいよ結審  傍聴を! 10月14日に東京高裁で5回目の口頭弁論が行われました。 原告弁護団は準備書面7(P2〜P7)を提出。障害者総合支援法第7条は「羈束処分」ではなく「裁量処分」であり、65歳を過ぎても障害者総合支援法のサービスを継続適用する余地はある。天海原告の場合は経済的負担増を考慮することも含め継続適用すべきであると改めて主張しました。 裁判長は「被告千葉市側に反論があれば11月中に提出するように。次回12月9日で結審する」と述べました。大阪、愛知など遠方の支援者を含め、40人超の方が傍聴に駆けつけてくれました。 参議院会館で行われた報告集会には、来場者、オンライン参加者合わせて100人の方の参加がありました。原告弁護団から「準備書面7はこれまでに主張してきた論点を含め、総まとめの主張を行った」と説明がありました。また、判決は2月または3月ごろではないかと予測しています。 裁判傍聴、報告集会ご参加の皆様ありがとうございました。 いよいよ次回は結審です。 天海原告の陳述も予定されています。 原告の主張そして多くの障害者の願いが認められることを期待いたします。国民の関心が高いことを示すためにも、傍聴席をあふれるほどの支援者で埋め尽くしましょう。ぜひ裁判所にお越しください。 皆様の力強いご支援をお願いいたします。 はがき要請行動にご協力を! すでに署名を1万筆超提出済みですが、結審を迎えるにあたり、新たな取り組みとして、はがき要請行動に取り組むことにしました。世論の高まりを裁判官に知ってもらう新たなインパクトとしたいと考えます。署名も引き続き取り組みます。すでに署名にご協力いただいた団体、個人の方もはがきを出してください。(P8をご覧ください) 第6回口頭弁論 12/9(金) 東京高等裁判所 午後 1時 裁判所前で集会 2時30分 開廷 101号法廷(1階) 3時30分 報告集会: 参議院会館 1階  101号室  コロナ感染拡大のため、報告集会はオンライン配信を基本とします。 視聴申し込みアドレスなどは別紙案内をご覧ください。 P2 準備書面7 総合支援法第7条は裁量処分 千葉市が適切に聴き取りをし、慎重に判断していたら継続の判断となったはず 第1 従前の主張の整理  1 控訴人に障害者総合支援法7条を適用した判断の違法性 控訴人は、原審から引き続き、控訴審においても、以下の主張を維持している(控訴理由書8頁以下)。 そもそも、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下、「法」という。)7条は、自立支援給付とそれに相当する他の給付との二重給付を回避するため、その方法を定めた併給調整規定である(甲23・36頁、甲46の3・61頁)。 それゆえ、同条の「(自立支援給付に相当するものを)受けることができるとき」とは、端的に「併給となる場合」をいう。 「要介護認定は、その申請のあった日にさかのぼってその効力を生ずる。」という介護保険法27条8項によって、要介護状態にある障害者が「受けることができる」介護保険給付は、「要介護認定の申請日以降の分」に限られる。 すなわち、実際に要介護認定の申請がなされるまでは、「自立支援給付」と「介護保険給付」との「併給」が生じることはない。 したがって、満65歳に達した要介護状態にある障害者が、要介護認定の申請をせずに自立支援給付の申請をしてきた場合は、法7条の適用要件には該当せず、市町村は、法7条により、自立支援給付を不支給(支給申請却下)とすることはできない。 本件却下処分は、控訴人の個別の事情の聴き取りもせずに、安易に法7条の不支給要件に該当すると判断したものであるが、介護保険の申請をしていない控訴人について、杓子定規に法7条を適用した被控訴人の判断は、明らかに誤りであるというのが、控訴人が原審から強く主張していることである。 第2 障害者総合支援法7条は裁量処分であること 第1の主張は、本件事案においても、引き続き自立支援給付の支給決定をする裁量が行政庁にあることを前提にしているものであり、被控訴人にはその裁量があるという理解を前提に、その裁量の逸脱・濫用があったとの主張である。 今般、裁判所から、被控訴人に裁量があるとする根拠につき釈明があったので、被控訴人に自立支援給付の支給決定をする裁量があると言える根拠について、以下のとおり説明する。 1 行政裁量とは そもそも、行政裁量とは、立法者が法律の枠内で行政機関に認めた判断の余地である(甲60・行政法概説T・有斐閣〜宇賀克也著〜350頁)。 例えば、専門技術的な判断を基礎とする場合や、全国一律の基準を定めることが相当でなく、地域の特性や地域住民の意見を斟酌して決定すべき事項は、法律で予め行政を全面的に拘束することはできず、行政の裁量により決定すべきことになる。 まず、障害者総合支援法による自立支援給付の支給決定をする際の、いかなる障害者にいかなる種類のサービスがどれだけ必要かという判断は、福祉行政の専門技術的な判断を基礎とすることになるため、市町村の合理的裁量に委ねられている(甲58・鈴木訴訟、甲59・石田訴訟の判決参照)。 2 行政裁量が認められる判断過程 行政裁量が認められる場合、どの部分に裁量が認められるかという検討をする必要がある。 確かに、法7条は、「…行わない」と規定しているため、ややもすると羈束性があるかのように思える。しかしながら、行政裁量は、「効果裁量」だけではなく「要件裁量」についても認められる。 法令で定めている要件が抽象的な不確定概念である場合、何がこの要件に該当するかは一義的に定まらないため、この要件該当性の判断に行政裁量が認められる。これを要件裁量という(甲60・352〜353頁)。 3 法7条は、文理上、要件裁量を認めた規定である。 法7条の文言を読み解くと、「自立支援給付は、…当該障害の状態につき、介護保険法の規定による介護給付…のうち自立支援給付に相当するものを受け、又は利用することができるときは…その限度において、行わない。」と規定している。 ここでいう自立支援給付を「行わない」ための要件は、「当該障害の状態につき」、「介護保険法の規定による介護給付…のうち自立支援給付に相当するものを受け」、又は「利用することができるとき…」とされている。 つまり、法7条に基づいて自立支援給付を不支給とするにあたっては、当該事例において、「障害の状態」や、「自立支援給付に相当するものを受け」、「利用することができるとき」という要件該当性が認定されることが必要である。つまり、当該申請者が現に支給されていた自立支援給付のうちのどれだけの量が「介護保険給付により…受けることができる給付」に該当するのかの判断が必要になる。 ところが、「障害の状態」や「自立支援給付に相当するものを受け」「介護保険給付により…受けることができる」という要件は、一義的に決まるものということはできない。 障害者の「障害の状態」は多種多様であり、それぞれの状態に応じていかなるサービスが適切かどうかは、福祉行政の専門技術的な判定を要するものであり、法令で一義的に決まるものではない。 また、福祉サービスを必要とする65歳以上の障害者の状況は千差万別であり、@介護保険の申請をしていない者、A介護保険の申請をしている者、B介護保険の申請をした場合でも、それまでと同じ事業者からサービスの提供を受けることができる者、C同じ事業者からサービスの提供を受けることができたとしても、介護保険サービスでは時間数が減らされる者、D介護保険の申請をしたら、事業者の変更を余儀なくされる者、E介護保険を利用しても自己負担額が生じない者、F介護保険を利用した場合に15,000円の自己負担が生じる者、G介護保険を利用した場合に2割の自己負担が生じる者、H介護保険を利用した場合に3割の自己負担が生じる者など、類型を挙げたら枚挙に暇がない。 このように、千差万別な個々の障害者について、「自立支援給付に相当するものを介護保険で受けられるかどうか」、及び「介護保険給付として受けることができる給付がどれだけか」は、個々の障害者の自立支援給付の支給実態や本人の意向に即し、自立支援給付と得られるべき介護保険給付を具体的に比較しなければ判断することはできない。 ホームヘルパーによる介護サービスという意味で抽象的に重なっているというだけで、杓子定規に「介護保険給付で受けることができる給付」であると認定することもできない。 結局のところ、法7条に基づく不支給決定のためには、申請者個々の要件該当性についての個別的具体的な判断が必要であり、法7条が定めている要件が抽象的な不確定概念であることが、まさに裁量処分(要件裁量)であることの根拠となる。 法7条の「…行わない」という文言から、直ちに羈束処分であると解釈するのは明らかに誤りであり、法7条が羈束処分ではないことについては、河野正輝意見書(甲45・19頁)においても指摘されている。 4 羈束処分との違い 行政行為の全てについて、行政庁に裁量が認められているわけではなく、裁量が認められない羈束処分もあるが、羈束処分とは、法律等がその要件を一義的に定めているようなものをいう(甲60・350頁)。 そして、羈束処分である場合、法律等が要件を一義的に定めている以上、論理必然的に、行政処分の違法性については、裁判所が判断代置審査方式により自らが行政庁と同様の立場に立って判断することが可能である。 しかし、いかなる障害者にいかなる種類のサービスがどれだけ必要であるかの判断や、法7条に基づく不支給要件である「自立支援給付に相当するものを受け、又は利用することができる」か否か、「介護保険給付として受けることができる給付がどれだけか」については、行政庁が個別的具体的判断を行うために必要な調査や聴き取りをしないことには認定することができない事柄であり、裁判所の判断代置審査にはなじまないものである。 このことからも、法7条は、羈束処分を定めたものと解釈することはできないと言える。 5 実際に他の自治体は、引き続き自立支援給付の支給決定をしている 被控訴人には、控訴人に対して引き続き自立支援給付を決定する裁量があったことは、他の自治体で、現実に自立支援給付を支給する選択がなされている(甲9)ことも一つの証左である。 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課による運用等実態調査によれば、36.3%の自治体において、介護保険の要介護認定に応じず申請をしない事例が存在したところ、支給決定期間を短くする自治体も含めると約83%の自治体が、引き続き障害者福祉サービスの支給決定を行っている。 介護保険給付の利用可能な障害者が、介護保険の申請勧奨に応じないで、自立支援給付の申請をしている場合に、自立支援給付の申請を却下する自治体は、6.4%(6自治体)にすぎない。 仮に、被控訴人に、引き続き自立支援給付を支給決定する裁量がないとすれば、このような事態が起こるはずがない。 他の自治体で、現実に自立支援給付の支給決定をする選択がなされていることは、被控訴人にも裁量があることの証左となる。 6 厚生労働省通知(甲8)や事務処理要領の存在(甲56) 平成19年3月28日厚生労働省通知(甲8)においても、「介護保険サービス優先の捉え方」として、「障害者が同様のサービスを希望する場合でも、その心身の状況やサービス利用を必要とする理由は多様であり、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスにより必要な支援を受けることができるか否かを一概に判断することは困難であることから、障害福祉サービスの種類に応じて当該サービスに相当する介護保険サービスを特定し、当該介護保険サービスを優先的に利用するものとすることはしないこととする」としている(甲8・4頁)。 これを受けて、福祉行政の職員向けの事務処理要領にも同様の記載をしており(甲56・66頁)、さらに、「要介護認定等の申請を行わない障害者に対しては、申請をしない理由や事情を十分に聴き取るとともに、継続して制度の説明を行い、申請について理解を得られるよう働きかけること」としている(甲56・68頁)。 上記厚労省通知(甲8)や、事務処理要領(甲56)では、市町村が「要介護認定の申請について理解を得られるまでは自立支援給付の支給決定をする」判断を裁量的になし得ることが前提とされており、これらの行政文書の存在も行政庁に裁量があることの証左となる。 7 原審の法7条の解釈の判断の誤り 原審は、法7条について羈束処分ではないとする原告(控訴人)の主張を排斥し、「障害者支援法7条が、65歳に達した障害者が…、要介護認定の申請をしないため、介護保険サービスの量及び不足するサービス量を算定することができないときに、市町村が、介護給付費の支給申請を却下することなく介護給付費の支給決定をすることができるものとしていると解することはできない。」として、法7条を羈束処分であるかのように判示している(原判決・20頁)。 しかし、前述のように、法7条が羈束処分だと解することはおよそ困難であり、明らかに誤った解釈である。 さらに、「他の市町村が…、介護給付費の支給決定をし…ているのは、事実上の取扱いである」と判示しているが(原判決・20頁)、かかる論理は採用し得ない。 万が一、「自立支援給付は…行わない」とする法7条が羈束処分だと解した場合には、法律による行政の原則によれば、法令と矛盾する取扱いを事実上することはできないはずである。 例えば、道路交通法施行令に基づく駐停車違反に対する基礎点数が2点と規定されている場合に、事実上1点の減点処分をすることはできないはずである。 法7条の解釈について、裁量処分だとする原告(控訴人)の主張を排斥した原審の判断は明らかに誤りであり、取り消されるべきである。 第3 浅田訴訟広島高等裁判所の判決(甲27) 1 広島高等裁判所の判決(甲27)の論理 被控訴人に、控訴人に対して引き続き自立支援給付を決定する裁量があったことは、法7条の条文構造から明らかであるが、浅田訴訟広島高等裁判所の判決(甲27)においても、「法7条は、介護保険給付を利用可能な障害者が、その申請をしない場合に、法7条に基づき、自立支援給付の不支給決定をすることは、羈束処分とはいえず、裁量処分である」と判示しているため、補強して述べる。 2 広島高等裁判所が法7条を裁量処分であると解釈した理由 浅田訴訟広島高等裁判所(甲27)において、法7条が裁量処分であると解釈した理由は、以下の@乃至Cに求められる。 @自立支援給付は、全ての国民が障害の有無にかかわらず個人として尊重されるものであるとの障害者基本法の理念にのっとり、障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付を行うものである。これに対し、介護保険給付は、加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となった者が、自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うものである。自立支援給付と介護保険給付は、その目的及び対象が異なり、故に給付の内容も相違するところがある。障害者が65歳になる前から有していた障害が、65歳になるや、加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾病等による要介護状態になるというわけでもない。したがって、介護保険給付を受けることができる障害者に対しては、一律に自立支援給付の不支給決定をするのではなく、要介護状態以前の障害によりどのようなサービスが必要なのか、介護保険給付の自己負担額を支払うことが障害によりどの程度負担なのか等を考慮して、自立支援給付を選択することが相当である場合がある。 A厚生労働省も、平成19年3月28日付の通達(甲8)をもって、一律に介護保険給付を優先的に利用するものとはしないこととし、介護保険給付を利用可能な障害者が、その申請をしていない場合は、介護保険給付の利用が優先される旨を説明し、申請を行うよう周知徹底を図るよう求めるにとどめていた。 B国は、その後、平成22年1月7日付「障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と国(厚生労働省)との基本合意文書」をもって、障害者自立支援法第7条の介護保険優先原則の廃止を検討することを約束した(乙1)。 C平成27年2月に報告された実態調査によれば、現在、介護保険給付を利用可能な障害者が、その申請の勧奨にも応じないで、自立支援給付の申請をしている場合に、自立支援給付の申請を却下する自治体は、6.4%にすぎず、現実に自立支援給付を支給する選択がなされている(甲9)。 この広島高等裁判所の判示は、上記の@からCの事情に鑑みて、法7条が、市町村の裁量処分であると考えるものである。 特に、@で指摘している障害者総合支援法と介護保険法の目的や対象、給付内容の差異は、介護保険給付を受けることができる障害者に対しても、一律に自立支援給付を不支給にすべきではなく、個別事情を考慮の上、自立支援給付を選択する(法7条を適用しない)場合があることに帰結するものであり、法7条が、行政庁の裁量処分を定めた規定であると解釈する説得的な理由付けとなる。 つまり、目的や対象・給付内容を異にした複数の法律の給付につき、どの程度併給調整すべきかについては、行政庁が個別事情を詳細に比較検討しない限り、形式的に判断することはできないため、法7条を適用できるか否かは、当然に行政の裁量判断になると考えられる。 そして、行政庁が法7条を適用する要件に該当しないと判断した場合には、引き続き自立支援給付の支給決定を選択すべきことになる。 第4 令和3年10月26日和歌山地方裁判所判決(甲61) 1 本訴訟においては、岡山地裁判決(甲23)及びその控訴審である広島高裁判決(甲27)を再三援用してきたが、他にも法7条の解釈について指針を示した判決があるので援用する。 令和3年10月26日和歌山地方裁判所判決(甲61)は、介護保険サービスの利用者が、障害者総合支援法に基づく居宅介護(控訴人と同様の介護サービス)に係る介護給付費(自立支援給付)の支給申請をしたところ、障害支援区分の認定もすることなく却下処分をしたことが違法だとして、処分が取り消された事例である。 2 この判決は、法7条の解釈について、「総合支援法7条…は、介護保険給付を受けることができるときは受けることができる給付の限度において行わない旨定めているにすぎず、介護保険被保険者がおよそ自立支援給付の受給権を有しないことを定めたものではない。これらの定めは、当該被保険者が合理的に介護保険サービスの利用を行えば、自立支援法給付せずとも介護保険サービスの枠内で同人の支援に関するニーズを満たすことができる場合に、その限りで自立支援給付を受給できないことを定めるにすぎない」と判示している。 つまり、法7条は、介護保険被保険者がおよそ自立支援給付の受給権を有しないことを定めたものではなく、ましてや、介護保険の申請をしていない障害者についてまで、自立支援給付の受給権を奪う趣旨であるとは到底考えられないものである。 この論理からも、介護保険の被保険者であっても、個別事情を考慮の上、法7条を適用せずに、引き続き自立支援給付の支給決定を選択できることは明らかである。 第5 本件却下処分の違法性  1 裁量の逸脱濫用 本件で、被控訴人には、控訴人に対して引き続き自立支援給付を決定する裁量があったことは、障害者総合支援法の条文の構造から明らかであるところ、その裁量権の行使には、著しい逸脱濫用があった点は、控訴人準備書面1から6において、繰り返し主張してきたとおりである。 控訴人は、本件処分当時、介護保険の申請をしておらず、介護保険の申請をしたら事業者の変更を余儀なくされる可能性もあり、介護保険を利用した場合に15,000円の自己負担が生じる者であったところ、被控訴人は、介護保険の申請をしていない控訴人について、15,000円の自己負担が生じることの影響も一切考慮せずに、当然のように法7条の不支給要件に該当すると判断したものである。 非課税世帯の控訴人にとって15,000円を下回る軽減措置が存在しない不合理な制度下においては、15,000円の自己負担が経済的に死活問題になるにもかかわらず、羈束的に法7条の要件該当性を認定した被控訴人の判断は、明らかに誤りであるというのが、控訴人が原審から強く主張していることである。 厚労省通知(甲8)や事務処理要領(甲56)にしたがって、適切に裁量権を行使していたら、自立支援給付を継続させる必要があるとの判断に至ったことは明らかであり、それらの事情は、控訴人準備書面1から6で主張したとおりである。 裁量権限の逸脱濫用の判断については、河野正輝意見書(甲45・19〜20頁)においても指摘されている。  2 裁量の逸脱濫用に関する補足 改めて補足するならば、被控訴人は、殊更に控訴人が要介護認定を受けない限り介護保険で利用できるはずの支給量を算定できないことを理由に、本件却下処分をしているが、それ自体が却下処分の理由にはならない。 そもそも、要介護認定を受けない限り介護保険で利用できる支給量を算定できないとの主張が詭弁であることは、控訴人準備書面2(18〜19頁)でも主張したところであるが、改めて補足する。 (1)原審の入野証人の尋問において、裁判長が、「大体このくらいという感じの、そういう評価もできないんですか」「介護保険を担当している部署の方に問い合わせるなりなんなりして、それでこのくらいだよと教えてもらうという方法もあると思うんですけれども…」と質問しているところ、本人の申請がない限り算定できないという趣旨の回答をしている(入野証言14頁)。 しかしながら、介護保険で利用できる量は概ねこのくらいという算定は可能であることは、控訴人準備書面1(19〜22頁)で説明したころである(甲49・加藤久美陳述書参照)。 また、岡山地裁判決(甲23)の審理過程においても、実際に、介護保険を申請した場合に支給されるであろう介護保険給付の推計を試みており、現実にケアマネージャーの協力の下、支給量の推計が可能であった。 そのことを説明するため、陳述書(甲62)も提出する。 これは、平成19年3月28日付厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長通知(甲8)において、「法第7条の…、介護給付費等の支給決定を行う際の介護保険制度との適用関係の基本的な考え方は以下のとおりであるので、市町村は、介護保険の被保険者である障害者から障害福祉サービスの…申請があった場合は、個別のケースに応じて、申請に係る障害福祉サービスに相当する介護保険サービスにより適切な支援を受けることが可能か否か、当該介護保険サービスに係る保険給付を受けることが可能か否か等について、介護保険担当課や当該受給者の居宅介護支援を行う居宅介護支援事業者等とも必要に応じて連携した上で把握し、適切に支給決定すること」と記載されている。 (2)原審の裁判長が言う通り、被控訴人は、介護保険を担当している部署に問い合わせるなりなんなりすべきであった。 しかしながら、裁判長からの「ちなみに、この件ではそういう問い合わせとかしていないんですよね。介護保険の担当のほうに天海さんに関して、天海さんが本当に介護保険のほうの申請をした場合にはどのくらいの認定があって、どのくらいの支給があるということ、確認していないんですよね」という問いに対し、入野証人は「そうです」と答えており(入野証言15頁)、確認さえもしていないことを認めている。 また、入野証人は「確認が難しいというふうにちょっと理解はしています」という曖昧な証言をしているが(入野証言15頁)、「介護保険担当課…とも必要に応じて連携した上で把握し、適切に支給決定すること」という平成19年3月28日付厚労省通知(甲8)に従えば、千葉市花見川区内で部署ごとに連携をとることができないはずがない。 (3)要介護認定を受けない限り介護保険で利用できるはずの支給量を算定できないことが不支給処分の理由にならないことは前述のとおりであり、自立支援給付の申請があった場合には、申請に係る障害福祉サービスに相当する介護保険サービスにより適切な支援を受けることが可能か否か、当該介護保険サービスに係る保険給付を受けることが可能か否か等について、介護保険担当課とも必要に応じて連携した上で、個別事情を把握すべきである。 逆にそのような丁寧な対応をしないのであれば、申請通りに自立支援給付の支給決定をすべきである。 この点は、藤岡毅意見書(甲36・59頁)でも指摘しているところである。 (4)以上のように、平成19年3月28日付厚労省通知(甲8)に従って、介護保険担当課とも連携した上で情報を把握することもなく、個別のケースに応じた適切な支給決定をしなかった本件処分は、裁量を逸脱したものを言わざるを得ない。 適切に勘案事項の聴き取りをし、慎重に判断していたら、控訴人に対して自立支援給付を継続させるべきとの判断に至ったことは明らかであることは、控訴人準備書面1から6でも繰り返し主張してきたところである。 よって、本件処分は取消を免れない違法な処分であり、本件処分を適法だと判断した原判決は取り消されるべきである。 P8 東京高裁での公正な判決を求める 署名運動・「要請はがき」運動へのご協力のお願い 原告 天海さんは2014年8月、65歳になった際、要介護認定調査に申請をしなかったという理由で、千葉市から障害福祉サービスの更新を却下され、全サービスが打ち切られました。天海さんは千葉地裁に提訴。2021年5月千葉地裁は天海さんの主張を全面却下ました。その判決は「日本の社会保障の基本は社会保険方式が優先である(「自助・共助・公助」)」、「他の者との公平性」という法的根拠のない政府の方針を大前提に、千葉市の障害福祉サービスの打ち切りを介護保険法の規定を流用して容認するものでした。天海さんは東京高裁に控訴。12月9日の第6回 口頭弁論で結審となります。私たちは千葉地裁の判決を高裁で確定させないためにも、逆転勝訴を勝ち取らなければなりません。そのためには、法廷での戦いだけでなく、この問題を社会化し、より多くの方から応援をしていただく必要があると考えています。 この実現に向けて、当会はこれまで署名運動を行ってきました。今後は、「要請はがき」運動にも取り組んでいく所存です。社会保障・社会福祉制度に係る問題は山積しているため、積極的なご協力をいただけると幸甚に存じます。 ※署名運動・要請はがき運動の取り組みについて ・期 限…2023年1月31日 ・署名について…署名した署名用紙を、天海訴訟を支援する会事務局まで送ってください。 ・要請はがきについて…私の一言、氏名(団体名)、住所を記入し、ポストに投函してください。 <はがきはニュースに1枚同封しましたが、団体などで取り組んでいただける場合は、ご連絡ください。ご相談に乗っていただけるとありがたいです。すでに署名済みの団体、個人も「要請はがき」を出してください> はがきおもて 100-8933 東京都千代田区霞ヶ関1の1の4 東京高等裁判所 第20民事部 令和3年(行コ)第170号 裁判長 村上正敏 殿 裁判官 内堀宏達 殿 裁判官 鈴木拓児 殿 はがきうら 障害者の尊厳が守られ、人権が保障される判決を 障害者が65歳等になって要介護認定の申請をしないことを理由に、自治体が介護をすべて打ち切ることは、憲法25条の生存権保障・国連障害者権利条約に抵触すると私たちは考えます。尊厳と人権が保障されるように、天海訴訟への公正な判決を求めます。 (私の一言) 氏名(団体名) 住所 (ニュース41号ここまで) メーリングリスト参加のお願い メールをお使いの方は、天海訴訟を支援する会のメーリングリストにぜひご参加ください。 ニュース配布、連絡、意見交換などに有用です。 ニュースに対するご感想、ご意見などお寄せください。 amagaisoshou@gmail.com あてにメールしてください。 ◎ご投稿をお待ちします。 天海訴訟を支援する会 262−0032 千葉市花見川区幕張町5-417-222 幕張グリーンハイツ109 障千連内 TEL・FAX  043−308−6621 http://amagai65.iinaa.net/ amagaisoshou@gmail.com 天海訴訟は、全国の65歳を迎える障害者共通の問題 支援の輪を広げてください この訴訟は全国の障害者共通の問題です。またこれまでに積み上げてきた障害者福祉制度の後退を食い止める裁判です。この訴訟に勝利するためには、世論の高まり、国民の皆さまのご協力が必要です。