天海訴訟を支援する会ニュース37号テキスト版 2022.6.8発行 目次 P1〜2……第3回口頭弁論報告 P3〜4……報告集会での発言 P5〜7…… 向後弁護団長にインタビュー P7…… 会費カンパのお願い P8…… 7/1第4回口頭弁論お知らせ P1、P2 千葉市は求釈明に返答すべし! 第3回口頭弁論が行われました  第4回は7/1 東京高裁第3回口頭弁論は4月22日に行われました。 傍聴された方、ライブ配信視聴の方、ありがとうございました。 報告集会は会場とリモート参加(複数のサテライト会場も設けられました)合わせて150人でした。 第3回口頭弁論では前回原告側が主張した「毎月1万5千円の負担は、障害年金で生活する障害者には過度な負担だ」との主張に対し、被告千葉市は何も答えませんでした。坂本千花弁護士によると、裁判官は障害福祉では無料であった利用料が介護保険で有料になった負担についてかなり気にしているようだとのことです。 また、被告千葉市は裁判官から質問された「境界層措置」について「天海原告は生活保護を申請しておらず、生保を受けていないので、境界層措置の対象にならない。その説明も必要ない」と回答しました。 介護保険は申請していないのに申請しないのはけしからんと言いながら、生保については申請していないので関係なしという主張は、市民の経済負担に思いが至らない、住民福祉に携わる自治体として無責任な態度と言わざるを得ません。 また原告側の「一刀両断にすべての障害福祉サービスを不支給とすることは、障害者福祉の目的と不支給処分の大きさを比較したとき、きわめて不均衡で比例原則に反する」という主張についても全く答えはありませんでした。 物の本によれば、求釈明に対する回答義務はないようですが、回答を拒むことは「被告に答える能力がない」あるいは「答えると被告にとってまずいことがある」との推断を招き、回答を拒んだこと自体が裁判所の判断材料になると考えられます。住民から訴えられた市が、住民の質問に答えないのは誠実な態度ではないでしょう。 裁判官から原告側に対して「市の処分を違法と主張している理由を、わかりやすく説明してほしい」との質問があり、次回に回答することになりました。坂本弁護士は「(移行について十分な説明をしていない、等)手続きの違法と、中身の違法の両方が違法だと主張する」と語っています。 次回4回目の口頭弁論では、第3回で結論が保留された、ケアマネージャー加藤久美さんと、意見書を提出している藤岡毅弁護士の陳述の採否について結論が出るとの見通しです。 この日、開廷に先立ち「東京高等裁判所において、天海訴訟の憲法と法律に基づく公正な判決を求めます」の署名、点字と墨字合わせて10,372筆を提出しました。団体、個人多くの署名にご協力いただきありがとうございました。 報告集会では支援する会八田代表の挨拶のほか、向後弁護団長から裁判の進行状況についての説明、坂本弁護士から天海原告側の準備書面の解説と被告千葉市の回答についての評価などが話されました。外山弁護士、武井弁護士、幡野弁護士も同席し発言しました。 またこの日は、岡山で勝訴を勝ち取った浅田訴訟の弁護団のおひとり光成卓明弁護士と、愛知で船橋一男さんを支援している高森裕司弁護士から、リモートでの発言をいただきました。(発言要旨は別項) 天海原告から「最後まで頑張る」と決意が示されました。 なお現在、天海さんの日常生活をビデオに撮り、裁判所に提出する準備が進んでいます。裁判上有利に働く資料になることが期待されます。 P3、P4 介護保険への強制移行は羈束処分ではない 高裁で司法の在り方を問い直す 4月22日の報告集会での発言要旨です。 65歳以降も障害福祉認められている 愛知:舟橋訴訟の高森裕司弁護士 愛知県一宮市の船橋一男さんは脳性麻痺の重度障害者です。2013年65歳になり市から障害福祉サービスを取り消すという通知が届いたが、重度訪問介護としてまるまる障害福祉が認められた。市の判断は素晴らしいとほめてきましたが、2022年1月1日から独自の支給基準を設け、これまで月400時間の給付から基準に従い272時間に減らされるとの連絡が来た。私たち弁護士が代理人となり、約1年間の交渉の結果360時間まで確保することができた。さらに今年2月には、24時までしかヘルパーを入れないとの通告があった。体位交換・痰の排泄・導尿など夜間支援がもっと必要になると考えれるのに、市は認めない。現在も交渉中。支給基準を設けたことにより、一宮市全体で4万時間もの支給量を減らしたのではないか。 千葉地裁の判決は、司法が勝手にルールを設定して行政の言うとおりにせよ、というもので、障害福祉は恩恵なのだから行政の都合に合わせろというものだ。国・自治体には健康で文化的な生活を保障する義務があり。障害者はそれを受ける権利があります。高裁で司法の在り方を問い直さなければいけない。逆転判決を勝ち取りましょう。 法7条は羈束処分ではないこと明瞭 資料を集めて矛盾を追及することが必要 岡山:浅田訴訟の光成卓明弁護士  浅田さんは介護保険を受けたくないと手続きをしませんでした。岡山市は障害福祉を全部切りました。このままでは死んでしまう。裁判に持ち込みました。一番驚いたのは答弁書にこれは覊束処分だと書いてあったこと。 社会保険に申請しなければ全部切らなければならないという建前になっているのだという市の主張です。いろいろな自治体が自分のところの解釈で、いろいろなやり方をしている。要介護認定に申請した場合、そのまま支給を継続しているところもあるし、月に一回説得に来るところもある。法7条が覊束処分であるわけがありません。浅田訴訟は全面勝訴、高裁の方がより良い判決でした。  岡山で成功したと思うのは、浅田さんの名前で個人情報の開示請求をしたことです。却下されるまでの資料や報告書、文章を全部出させました。なにも検討していなかった、浅田さんへの説得も、ほとんどしていないことがその資料から分かりました。 厚労省が行った調査では、全国の自治体がすごくいろいろなやり方をしていることが分かりました。そもそも厚労省が柔軟にやれと言っている。柔軟にやれと言っているものが覊束処分であるわけがありませんからそれも意味があった。  介護保険に移ったらどれくらいの支給量が必要になるか弁護団が試算したところ、それまでの3分の1程度しかなくて、残りは障害福祉の上乗せ支給になります。弁護団ができる試算をなぜ市ができないのかという追求をしました。 これらが一定の効果があったのではないかと思います。  裁判官の3人に1人くらいは国の言うことを聞いておけばよいという人もいます。天海訴訟はその中の1人にあたってしまったのではないかと思います。そこで理念闘争だけをやるのは危険があるような気がしています。資料を集めて出して、矛盾を追求することが必要で、浅田訴訟はそれが成功した。 何とかして逆転勝訴にしたいと思っています。 (羈束処分(きそくしょぶん) 法規の執行にあたり、行政庁の自由裁量の認められない処分。 (対義語:裁量処分)) 天海訴訟経過 2014.07.13  天海正克さん 65歳誕生日 2014.08.01  千葉市 天海さんの 福祉サービをすべて停止 2014.10.01  千葉県知事へ不服審査請求 2015.05.28  審査請求棄却 2015.11.27  千葉地方裁判所へ提訴 2021.05.18  千葉地裁不当判決   東京高等裁判所へ控訴 2021.10.13  東京高裁 第1回口頭弁論 2022.07.01         第4回 P5,P6,P7 インタビュー 天海訴訟 向後弁護団長にお聞きしました 千葉地裁の判決とこれからの裁判 天海訴訟のこれまでの裁判について、弁護団長の向後剛弁護士にインタビューしました。 問)天海さんが提起した訴訟はどのようなものですか? 答)65歳になると介護保険サービスが使えるようになります。それまでに受けてきた障害福祉サービスと、これから受けられるようになる介護保険サービスのいずれによるのかが問題となります。行政(市町村)は、65歳になる障害者に対して、介護保険サービスを利用するように勧めます。障害者総合支援法(以下、「法」と略す。)7条に「自立支援給付は、介護保険法による介護給付により、自立支援給付に相当するものを受け、または利用することができるときは、政令で定める限度において行わない。」旨が定められているからです。しかし、障害者側では(1)特に住民税非課税世帯において、介護保険に移行した場合に新たに利用者自己負担分が発生する。(2)障害福祉と介護保険では目的・サービスの内容が異なり、介護保険に移行した場合に障害者の人権に配慮した十分なサービスが受けられるか不安が残る等の理由で、素直に介護保険への移行を受け入れにくいところがあります。「障害者の65歳問題」といわれている問題です。 65歳を迎える天海さんは、千葉市が介護サービスについて介護保険サービスへの移行を求めてきたのを断り、引き続き障害福祉サービスを受けるために、法の規定による介護給付費の支給申請をしました。これに対し、千葉市は、「天海さんが要介護認定の申請をしないため、サービスの支給量を算定することができない。」として、天海さんによる上記障害福祉サービスの支給申請を却下した(以下、「本件処分」という。)。天海さんは、本件処分が違法であるとして、本件処分の取消しや国家賠償を求める訴訟を千葉地裁に提起しました。これが天海訴訟と呼ばれる裁判です。 問)千葉地裁はどのような判決を出したのですか。 答)千葉地裁は、令和3年5月18日、「本件申請を却下した本件処分は適法である」というもので、天海さんの訴えを退けました。 判決の骨子は以下のようなものです。 本件の主な争点は、「介護給付費(障害福祉)の支給申請の適法要件」である。 (1)法には規定がないが、法が、正当な理由なく自らの申請に係る障害支援区分の認定及び支給要否決定が行われるのに協力しない障害者について、当該障害者に係る介護給付費の支給申請を不適法なものとして却下することができないこととしていると解するのは相当でない。市町村は、障害福祉給付の申請者が正当な理由なく自ら申請した手続に協力しないときは、当該支給申請を不適法なものとして却下できると解すべきである。 (2)法及び関連法令には、65歳に達した障害者が要介護認定の申請をすることが障害福祉による介護給付費の支給申請の適法要件であると解する直接の根拠となる定めはない。しかし、法7条により、障害福祉サービスの介護給付費の支給は、介護保険の訪問介護で受けることができる給付の限度において行われず、訪問介護によっては賄うことができない不足分についてのみ行われることになる。そうすると、障害者が65歳以上で要介護状態にあると見込まれるときは、当該障害者が要介護認定の申請をしない限り、介護保険により受けることができる給付が定まらず、障害福祉サービスによる介護給付費の支給量を算定できないのであり、この場合に要介護状態にあるものであることが見込まれる当該障害者が要介護認定申請をしないことは、自らの申請に係る支給要否決定が行われるのに協力しないことにほかならない。65歳以上の要介護状態にあるものであることが見込まれる障害者が要介護認定の申請をしないときは、要介護認定の申請をしないことに正当な理由がない限り、市町村は、当該介護給付費の支給申請を不適法なものとして却下することができる(要介護認定の申請をすることが障害福祉による介護給付費の支給申請の適法要件となる。)というべきである。 (3)本件で、自立支援給付と介護保険とを任意に選択することを許すことは、公費負担の制度よりも社会保険を優先するという社会保障の基本的な考え方に背馳するとともに、他の者との公平にも反し相当でないので、原告が要介護認定の申請をしないことに正当な理由があると認めることはできない。 したがって、被告(千葉市)は、本件申請を不適法なものとして却下することができるのであり、本件申請を却下した本件処分は適法である。 というものです。 その他、憲法違反の主張(それまで利用者自己負担なしでサービスを利用してきた住民税非課税世帯の障害者について、法7条の介護保険優先原則を適用し、65歳に達したことを理由に利用者自己負担のある介護保険への移行を強制することは、自立支援法違憲訴訟において確認された「応能負担の原則により給付を受けられる障害者の権利」を侵害し違憲である。)について、 「立法府には広い裁量権があるので、法7条を65歳・住民税非課税世帯の障害者に適用することが、憲法14条、25条から導かれる障害者の応能負担により福祉を利用する権利を侵害するということはできない。」ということも判決の中に示されました。 問)岡山の浅田さんも同様な裁判を起こしていますが。 答)広島高裁岡山支部の判決は「処分行政庁(岡山市)に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用にわたるものであって、違法と認められる。」として浅田さんの訴えを認めました。 問)千葉地裁の判決は、障害者の実態を無視し、法律などに規定のない「公費負担よりも社会保険が優先する社会保障の原理」などを根拠視した不当判決と考えますが、いかがですか。 答)天海訴訟千葉地裁判決は、「自立支援給付と介護保険とを任意に選択することを許すことは、公費負担の制度よりも社会保険を優先するという社会保障の基本的な考え方に背馳するとともに、他の者との公平にも反し相当でない」ことを重視して、行政は、この場合に、障害福祉サービスの支給申請を却下すべきと考えました。しかし、「公費負担の制度よりも社会保険を優先」といっても、その射程範囲や例外の余地が検討される必要があります。また、「他の者との公平」というのも、どの立場の公平が重視されるべきか検討の余地があります。「公費負担の制度よりも社会保険を優先」とか「他の者との公平」というのはあいまいであり、裁判所による法的判断の決め手にするのには相応しくないように思われます。 天海訴訟千葉地裁判決と正反対の立場として、「行政は、申請どおりに障害福祉サービスを支給すべき」という立場が考えられます。天海訴訟弁護団による「「併給」にならないので、調整せずに障害福祉サービスを支給しなければならない。」という主張は、この立場を導く1つの論拠です。浅田訴訟岡山地裁判決も、自立支援法7条の適用場面を限定する方法(自立支援法7条の限定解釈)により、この立場を導いています。だだし、その判断枠組は、浅田訴訟広島高裁判決により変更されています。 浅田訴訟広島高裁判決は、上記の2つの立場の中間的なバランスの取れた立場です。ただし、その判断基準によれば、「行政の判断過程に看過し難い重大なミスがない限り、不支給決定は適法」という結論となり、事案に応じて結論が分かれる可能性があります。それゆえ、浅田訴訟広島高裁判決の判断基準によって、天海訴訟を判定した場合の結論も定かではありません。 このように、本件の問題(障害者の65歳問題についての行政の対応の仕方、障害福祉給付と介護保険給付との調整のあり方)については、裁判所ごとに判断が分かれており(これまでに本件の問題を扱った、浅田訴訟岡山地裁判決、浅田訴訟広島高裁判決、天海訴訟千葉地裁判決は、いずれも異なる判断枠組を用いている。)、決着がついていません。 問)今後の東京高裁の裁判についていかがでしょうか。 答)天海訴訟控訴審には、河野意見書と藤岡意見書が提出されています。河野意見書は、障害福祉給付と介護保険給付との併給調整が、目的・内容の異なる給付間の併給調整であることに着目して、障害福祉給付と介護保険給付の併給調整のあり方を示しています。藤岡意見書は、障害者の人権保障という視点を基礎に、障害福祉給付と介護保険給付の併給調整のあり方を論じています。 これらの意見書は、本件の問題を適切に決着させるのに有用な考えを提供していると思われます。 P7 会費・カンパのお願い 裁判は東京高等裁判所で進められています。7/1に4回目の口頭弁論が行われます。弁護団は増員されました。これからも支援活動が必要です。裁判費用、支援活動の経費等に充てるため、ご協力をお願いいたします。 3月に振込用紙を同封したところ、障害者運動推進基金様をはじめ50を超える団体・個人の方から会費、寄付金をお寄せいただきました。ありがとうございます。 振込用紙がまだお手元にある方、またニュースが届いていない方にも声をかけていただき、もう一回り大きなご協力をお願いいたします。 振込先 〒振替 00260-0-87731 「天海訴訟を支援する会」 通信欄に「会費」「カンパ」等を、またメッセージなども一言あるとうれしいです。 郵便局の手数料が値上がりしています。郵便局に口座があればATMからの送金の方が、現金での振り込みよりも安価です。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ニュース送付先をご紹介ください。 メールでもお届けいたします。 メールアドレスを新規に作りました。 郵送先住所またはメールアドレスを下記へご連絡ください。 amagaisoshou@gmail.com P8 第4回口頭弁論のお知らせ 7月1日(金) 13:00 東京高裁・裁判所前集会 14:00 受付・抽選 14:30 開廷 参議院議員会館 1階101会議室へ移動 会館入り口で支援する会担当者から入館証を受け取ってください。 15:30 報告集会 (コロナ感染拡大のため、傍聴者以外はオンラインライブ配信を基本とします) オンライン配信  申し込みアドレス  https://bit.ly/3xdVCUN 申し込みフォームからの入力が不安の方は下記事項記載の上 amagaisoshou@gmail.com へメールしてください。メール新設。 後日招待メールを送付します。 1.メールアドレス 2.氏名 3.ふりがな 4.都道府県名 5.人数 6.参加内容(裁判所前集会、参議院会館での報告集会、Zoom参加) 7.所属団体 8.連絡先電話番号 9.テキストデータ・手話通訳などの必要な支援、 10.そのほか不明点など、 掲載写真の説明 P2 原告天海正克さんの顔写真、 4/22東京高裁へ署名提出時の障都連市橋会長(左)と支援する会の皆さん P3 裁判所前で市民に訴え P4 2015.11.27 提訴の日に裁判所前で(集合写真)  ニュースNO37はここまで メーリングリスト参加のお願い メールをお使いの方は、天海訴訟を支援する会のメーリングリストにぜひご参加ください。 ニュース配布、連絡、意見交換などに有用です。 amagaisoshou@gmail.com あてメールしてください。 ◎ご投稿をお待ちします。 天海訴訟を支援する会 262−0032 千葉市花見川区幕張町5-417-222 幕張グリーンハイツ109 障千連内 TEL・FAX  043−308−6621 http://amagai65.iinaa.net/ amagaisoshou@gmail.com 天海訴訟は、全国の65歳を迎える障害者共通の問題 支援の輪を広げてください この訴訟は全国の障害者共通の問題です。またこれまでに積み上げてきた障害者福祉制度の後退を食い止める裁判です。この訴訟に勝利するためには、世論の高まり、国民の皆さまのご協力が必要です。